大人であればノーベル賞の持つ意味合い位は分かっていて当たり前かもしれません。私たち凡人が逆立ちしたって貰えるような賞ではありません。このブログで一度書きましたが私の友人に小学生の頃から ノーベル賞をもらう事を目標にしている人物がいました。

名前は永長直人君です。彼は確か小学校の三年生の時に私のクラスに転入してきました。小学生の場合 勉強の出来る子の方が どちらかと言えばスポーツにも秀でている場合が多かったように思います。所が彼は 走るのも早くないし 球技も特に上手くはありませんでした。

ただ小学生のくせに やたらと知的な雰囲気は持っていましたので 直ぐにそれなりに一目置かれる存在にはなりました。授業を受けていても 普通の子は先生の言う事をそのまま受け入れる一方ですが 彼はしばしば独自の考え方を先生にぶつけました。

例えば 国語の授業で小説の登場人物の心情を読み取る場合です。私たちも勿論自分なりには考えますが 先生に説明されたら そのまま素直に受け取ろうとします。しかし彼は自分なりに時代背景や細かい人物関係などを調べていて 先生よりもさらに一歩踏み込んだ気持ちまで掘り下げようとしていました。

算数のように答えが一つしかない問題の場合 先生の説明する解き方よりもより更に簡略で間違いにくい解き方を常に目指していました。私たち凡人は この子は先生の事を信用していないのではないかと 不思議に思っていました。

そしてテストが始まると 永長君の独り舞台が開幕します。私たち凡人はテスト問題の内容や表現に疑いの気持ちは普通持ち合わせません。所が彼は問題文の曖昧な表現、即ち厳密な正解を一つに特定できない表現を見つけると いつもこう叫びました。「ミスプリントや」 一枚のテスト用紙で何度も彼の「ミスプリントや」の声が聴こえてきました。その度に先生が彼の言い分をきいて 彼の納得のいくように説明を繰り返していました。

私も最初は彼の言い分をきいて それにこたえる先生の説明をきいていましたが そんな事をしていては貴重なテストの時間を無駄遣いしてしまう事に気付いて 極力無視するように心掛けました。殆どの場合は 先生の説明で 彼が納得して引き下がってくれましたが 時には彼の言い分が通り 先生から他の子たちに問題文の解釈について補足説明がなされることも何度もありました。テストの成績としては 勿論彼は 全科目満点を取り続けていたのだろうと思います。尚、彼のあだ名は「ミスプリントの鬼」と「天才エイチョ―」になりました。

そんな時に将来の夢について書いた作文で彼がノーベル賞を大人になってから取りたい、と書いていました。まだ小学生の子供ですから ノーベル賞の意味合いやその賞を貰う事のむずかしさ 偉大さを理解できた子供は殆どいなかったと思います。私もただ風変わりな夢だなあとしか思いませんでした。

中学一年生までに 何度か同じクラスになり 彼の勉強に対する取り組み方には 半ば呆れながらも感心していました。私が中二の時に交野市に転校してから 暫く彼との縁は切れました。高校に進学した時に 四条畷高校で彼と再会しました。

ソコソコのええとこのお坊ちゃんみたいだし ずば抜けて優秀な頭脳を持っているので 私立の中学、高校に進学しそうなものですが ご両親が公立の学校で学ぶことをすすめたのだそうです。四条畷高校は一応進学校としてご存知だと思いますが 私たちの学年から第四学区のトップ校になりましたので いってみればクラスで一番か二番の成績の子ばかりが集まったような学校でした。

私はそれまでテストで 平均点以下の点数はもらったことがありませんでしたが この学校では平均点を取る事に相当苦労しました。そんな優秀な子ばかりが集まっている学校でも永長君はずば抜けた成績を収めていました。特に三年生になってから実施された模擬テストでまた驚かされました。五教科各200点満点 つまり1000点満点のテストでした。

平均点が400点前後だったと思います。相変わらず私はその前後をうろうろしていました。例年だと最高得点が700点近くなのだそうです。全生徒の点数の分布表がテスト後に配られますが 例年は700点を超える者がいないので200点から700点までの表に収まっていたのだそうです。所が彼だけが900点前後の前代未聞の点数を獲得したために わざわざその分布表を私たちの年だけ作り変えたと聞いています。

卒業後彼は当然東京大学に進学して理学部の物理学専攻に進んだのだそうです。その後の事は全く耳にしていませんが そろそろ教授になってもよい年齢です。但し大学の教授になるためには優秀な研究実績も大切ですが 人間関係をうまく処理する能力も必要不可欠だと思います。

彼が現在も東大で研究を続けているのか その他の研究機関に在籍しているのか 分かりませんが 子供の頃からの夢に向かって 研究に邁進していてくれることは 間違いないと思います。何時の日にか 永長直人君が子供の頃の夢を実現して ノーベル賞を受賞してくれることを期待しています。