よくあるご質問

飼い主さんからよく受ける質問にお答えします。
※10年前に掲載した内容もあり、情報が古い場合もございます。お気付きの点がありましたらご指摘、ご指導ください。

老犬の介護


  • 家の犬(ラブラドール14歳、メス、体重約30kg)が一ヶ月位前から急に歩けなくなり 殆ど寝たきり、垂れ流しに近い状態です。体が大きいのでこまめに洗ってやることも出来ず、匂いや床擦れがひどくなってきました。何とか清潔に保って、快適に過ごさせてやりたいのですが良い方法はありませんか?


    ご質問頂いた飼い主さんは犬を飼うのが初めてだそうですが、平均寿命が十五歳位と言われる犬が十四歳になれば(平均寿命が八十歳位の日本人に例えれば七十歳を超えているわけですから)いつ何時歩けなくなったり、寝たきりになっても不思議はないと考えてそれなりの対策や準備をしておかれるべきだったのではないでしょうか。突然歩けなくなったと思われているみたいですが、犬の行動をもう少し注意深く見ておられたら、例えば寝ている状態、座っている状態から立ち上がるときに、段々スムーズさを欠いて苦労するようになっていたでしょうし、普通に歩いているときでもその足取りの力強さが徐々に無くなっていったはずです。起立や歩行を補助する為の介護用胴輪等を利用していれば、起立困難、歩行不能になる日はもう少し先送りが出来ていたかもしれません。過ぎた事について、ここでくどくどと申し上げたくはありませんが、これからも犬の状態は日々変化し、少しずつ衰えていくでしょうから、その微妙な兆候を見逃さないようにして 早めの対策を講じていくことが犬自身と飼い主さんの為に必要だと感じて、あえて申し上げました。失礼な表現になってしまったかもしれませんが、お許しください。

    <寝たきりになったときの排泄>
    現在お困りの排泄が上手く出来ない状況についてですが、本人としても横になった状態での垂れ流しは不本意だと思いますから、介護用胴輪などを利用して何とか起立した状態にしてあげて排便、排尿を促しましょう。毎日決まった時間にペットシーツなどを敷いた上に立たせてあげて、その時にその場所で排泄する習慣が身につくまで根気よく応援してあげましょう。室内での排泄に慣れていれば飼い主さんの気持ちが伝わり上手に排泄できるようになるまで それ程時間はかからないと思います。但し、この子は大型犬ですから、いずれ介護用品を使っても一時的な起立が難しくなってくると思いますがその時にまたご相談ください。

    <床擦れとは>
    次に、人間でも同様ですが寝たきりになるとどうしても発生しやすい床擦れについて考えてみましょう。床擦れとは、寝たきりになる事で 普段圧迫されていない部位が体重により継続的に圧迫されて血流が悪くなり、酸素や栄養が不足する事によりその部位の皮膚及び皮下の組織が壊死して潰瘍となる状態を言います。ある程度圧迫が継続すると まず痛みが発生します。健康であればその痛みによって 自然と寝返りをうつ等 体勢を変えるので人間でも犬でも床擦れは起こりません。所が寝たきり状態になっている場合、神経や筋肉に異常があるわけで 体勢が上手く変えられず圧迫が継続するので床擦れが起こってしまうわけです。

    <床擦れの治療>
    治療法は壊死した部分が大きければ切除などの外科的処置が必要な場合もありますし、感染や炎症があればそれらに対処しながら 血行を改善し脱落した組織の回復を促進します。言葉で表現すると簡単そうですが、血行を確保する為に約二時間毎に寝ている姿勢を変えてあげたり、定期的にマッサージを繰り返したり、感染や炎症があれば消毒薬や消炎剤を投与したりと、地道で辛い介護が続きます。そして、一旦治療して治ったとしても 再発するケースは少なくありません。

    <床擦れの予防>
    ですから、出来れば予防を心掛ける事が重要です。起こりやすいのは例えば肩や肘、骨盤や肩甲骨等の出っ張った部分、そして陰部の周囲などの皮膚が薄くて弱いうえにどうしても不潔になり易い場所です。床擦れの最初の兆候は圧迫が持続するのでその部位を触ると嫌がり、皮膚が少し赤味を帯びます。普段から、起こりそうな部位を観察して、そのような部位が見つかればまずはマッサージを繰り返し、血行促進剤を塗布します。勿論、その部位が下側になって圧迫を受けにくい体勢を継続しないように注意しましょう。但し、ある部位だけに気をとられているとその反対側に必ず床擦れが始まりますから、バランスよく体勢を変えましょう。これも、言葉で表現すると簡単ですが、本人の好きな体勢、嫌いな体勢等がありバランスをとるのは結構大変です。予め計画表を作り、何時から何時まではこの体勢と決めておくと良いと思います。

    <床擦れ対策用品を活用>
    動物用の介護用品はかなりの種類が市販されていますから、有効なものはどんどん役立て、必要に応じて自分なりに改良したり 自分で作って活用しましょう。

    (床擦れ防止マットアクリル製で毛足が長くてこしのあるマットで、小型犬なら加圧される部位が一点に集中しないので血行が阻害されにくく、尿や涎が垂れても直接皮膚が濡れたり汚れたりしにくいそうです。「丸洗いできるので繰り返し清潔に使えるなかなかの優れものである」と使用されている飼い主さんからの情報です。残念ながら、大型犬で使用された方からの情報がありませんが、試してみる価値はあるかと思います。

    (ドーナツ枕)真ん中の空洞部で骨の出っ張った部位などの加圧を避ける為に装着するドーナツ状の枕ですが、市販されている物を購入するよりも 必要な部位の大きさにあわせてガーゼやタオル、さらしの布等で自分で作られた方がよいかも知れません。作り方は言葉で表現しにくいので直接ご指導します。

    (低反発性マット)床に敷くだけで 身体の形状にフィットするので出っ張った部分に加圧が集中しない事とドーナツ枕の様に装着する必要が無い便利さはメリットですがが、逆に通気性が悪くなる可能性があり、尿などの汚れに弱い点等のデメリットもあり、現在の所 賛否両論あるようです。排泄が上手く出来る子なら 短時間の使用にはおすすめ出来ると思います。

    <皮膚を清潔に保つ>
    寝たきりになるとどうしても皮膚が不潔になりがちですから、清潔に保つ為の方法を考えましょう。

    (入浴)定期的に入浴できれば、清潔さを保つ最良の方法であるのは間違いありません。適温の湯にゆったりと浸ることにより体の隅ずみまで毛穴が開き皮脂等の汚れがほぐれて、後のシャンプーの効果を高めるでしょう。更に全身が温まりますし、水中では重力から解放されますから血管が開いて血行が促進されますから、床擦れの予防と治療にも良い効果が期待できると思います。但し、シャンプー後の十分なすすぎと隅ずみまでの乾燥を徹底しないとかえって逆効果になる場合もありますから要注意です。安全で効果的な入浴は飼い主さんでは難しいかもしれませんから、対応してもらえる病院があれば依頼される事をおすすめします。尚、当院では寝たきりの犬猫の入浴サービスを実施しておりますので、料金やシステムについては電話で確認してください。

    (ドライシャンプー)全身の入浴が難しい場合は、ドライシャンプーを利用されると良いかもしれません。体質や皮膚の状態に合う種類を選ぶ事とふき取りを十分にする事に注意してください。

    以上、一般的な対策を述べましたが、具体的なことはケースバイケースですのでお電話などでお話したほうが分かり易いと思いますので遠慮なく電話してください。


  • 親戚の老犬(柴犬16歳)が寝たきりになり、その介護に非常に苦労されています。我家の犬(シェルティ13歳)は現在の所 元気ですが 何れ同様になるのではないかと心配です。要介護状態になった時の為に 今のうちから準備したり心掛けておくべき事があれば教えて下さい。


    人間が要介護状態になったときの為に、家を予めバリアフリー仕様にしておくように、犬が老齢により体が不自由になった時を想定して 生活の場や様式を少しずつ改めていく事はとても良い事だと思います。具体的にどの様にすればよいかは、ケースバイケースですので、ごく一般的なことを幾つか提案してみます。必要と思われることがあれば実行してみてください。

    ◎足腰の衰え→生活の場を一階へ
    人間が老齢化するとまず足腰が弱りますが 犬も同様ですから、階段の上り下りなどを避ける為に、二階若しくはそれ以上で生活している犬は 出来れば一階に生活の場を移しましょう。介護状態になれば、小まめに様子をみてあげられる場所においてあげる事で飼い主さんの負担も軽減できると思います。(勿論、一戸建てのお住まいの方の話で、集合住宅にお住まいの方に引越しまで 提案しているわけではありません)

    ◎抱っこ→出来なくなるかもしれません
    小型犬なら現時点では抱っこして階段などの上り下りが容易かもしれませんが、年齢が進むと例えば心疾患等で胸を圧迫される事を嫌がるようになるかもしれませんし、乳腺腫瘍等ができて 痛がり暴れるかもしれません。ですから生活の場はなるべく抱きかかえて移動する必要の無い場所が望ましいと思います。

    ◎視力の衰え→見えてるうちに覚えさせましょう
    遅かれ早かれ白内障等で視覚が衰えますから、ある程度でも見えているうちに、生活の場に慣れて、例えばトイレの場所等を覚えさせるためにも、まだある程度元気で目が見えているうちに生活の場を要介護状態になったときに過ごす場所へ移しましょう。
    ◎生活の場の危険な場所→早く見つけて対策
    家の中での犬の通り道はある程度限定されていますから、よく観察して例えば頭をぶつけそうな場所には柔軟材で覆いをしたり、コードやコンセントで転びそうな場所には近づき難くする等の対策も早めに心がけましょう。

    ◎段差→階段やスロープを
    玄関やお気に入りのソファー等に段差が結構ある場合は、コンクリートブロック等で段差の小さな階段を作るか、板等を用いてスロープを作る必要があるかもしれません。但し、この様なルートも、慣れておかないと使ってもらえませんから まだ元気なうちから少しずつ階段やスロープを利用し始めましょう。

    ◎散歩時の排泄→屋内トイレでの排泄
    排泄の習慣についてですが、きちんと散歩に決まった時間に連れていっていると、散歩中に便、尿の排泄を済ませる習慣がついている場合多いと思いますが、足腰が弱れば定期的な運動は徐々に難しくなります。(勿論 突然に歩けなくなる場合もあります)ですから、少しずつ屋内での排泄を習慣づけていきましょう。

    ◎介護用胴輪→馴染む為に早めに利用し始めましょう
    足腰が弱ってきたときに、起立や歩行そして寝返り等を補助する為の介護用胴輪(ハーネス)は、嫌がる子もいますが重宝されている方も多いと思います。身体を包み込む形なので体型にフィットして傷害部位にマッチする胴輪を選択し ある程度馴染ませるにはじかんがかかると思います。ですから、歩けなくなってからではなくて、起立が辛くなってきた時期くらいから始められると本人もそれ程違和感を味わわずに利用できると思います。

    ◎聴覚も衰える→指示は声と動作で
    聴覚も衰えますから 犬への指示を、声や音だけで伝えていると徐々に指示が伝わりにくくなります。ですから、指示は視覚と聴覚の両方に訴えて与えた方がよいでしょう。即ち、指示を出すときに声だけでなく飼い主さんの動作も加えましょう。それも小さな動きでは視覚も衰えてくるわけですから少し大袈裟な位の動きを加えたほうが犬には解り易いと思います。

    ◎脳も衰える→指示は出来るだけシンプルに
    脳の衰えも同時に進行しますから、理解力や記憶力も低下します。若い頃には沢山の細かな指示を理解し実行できたかもしれませんが犬への指示は必要最小限のものを出来るだけ解かり易く伝えましょう。

    ◎定期的な健康診断
    これも人間同様ですが老齢になればなるほど、いろんな病気に罹り易くなりますから、早期発見 早期治療を目指して定期的に病院で健康診断を受けられる事をおすすめします。(当院ではペットドックを実施しております。一日お預かりしてかなり細かく調べますから出来れば一年に一回受診されると安心です。実際に病気になられたときの検査実費より料金がずっと安いですし、受信日から一年間の診察料が無料になるなどの特典もあります)

    以上、思いつく順に書き並べてみましたが、参考になる事があれば幸いです。具体的に困った事が起こったら、またご相談ください。お待ちしております。