よくあるご質問

飼い主さんからよく受ける質問にお答えします。
※10年前に掲載した内容もあり、情報が古い場合もございます。お気付きの点がありましたらご指摘、ご指導ください。

ペットの麻酔


  • 猫(日本猫、2歳)に避妊の手術を受けさせたのですが、手術中に死亡してしまいました。原因は麻酔が身体に合わなかったからだろうと言われました。事前に麻酔が体に合うか合わないかの検査等すべきだったのではありませんか?


    動物病院の獣医師としては、答えにくい内容であり且つストレートな質問を頂きましたのでかなり困っておりますが、逃げずに精一杯のお答えをしたいと思います。
    避妊の手術の主な目的は望まれない妊娠を防ぐ事であり結果的に乳腺腫瘍や子宮蓄膿症等の恐ろしい病気を未然に防ぐメリットもあります。つまり原則的に健康な動物に施す手術でありますから、例えば腫瘍の摘出手術のように健康体になる為に行う手術とは、手術の周囲の状況が全く異なります。
    相談者が仰るように事前に十分な検査を実施すれば何らかの異状を見つけることが出来たかもしれません。その異状に対して先に治療して健康な状態になってから手術すれば無事に終えられたのかもしれません。治療をしなくても手術する獣医師が異状を認識していてそれなりの準備をしていたら術中に猫は死亡せずに済んだかもしれません。勿論、急ぐ必要の無い手術ですからとりあえず延期若しくは取りやめるという選択肢もあったかもしれません。
    只、当院に若くて元気な猫が来院して避妊の手術を希望されたとしたら、過去の病歴や現在の状態等を問診し一般的な診察(体重や体温を測り、目や耳、歯や歯茎、皮膚や毛、爪、肛門等の状態をチェックし、聴診器で心音呼吸状態などを確認、全身の触診等)をして特に心配な点が無ければ、それ以上の検査等はせずに手術の日程を決め準備を始めるでしょう。
    もし、猫がかなりの高齢であったり、著しく肥満若しくは削痩した状態であったり、診察して何か心配な点が見つかれば、飼い主さんに説明して了解の上で必要に応じて検査をするかもしれません。相談者の猫の場合、先生から検査の必要性等の説明が無かったとしたら、問診や診察で特に心配な点は見つからなかったのだと思います。
    もし手術が腫瘍の摘出の場合なら、飼い主さんに説明し了解を頂いて転移の可能性を危惧してレントゲンを撮影するでしょうし、全身的なダメージや状態をチェックする為に血液検査を行うであろうと思います。
    健康である事が前提として行う避妊、去勢の手術で、何も異状が見つからないであろうと推測される検査を実施する事は、レントゲン撮影や採血による猫への負担(大人しい猫なら大したことはありませんが、結構暴れる子が多いです)、手術費用に加えてかかる検査費用という飼い主さんへの負担を考慮すると病院としてもあまりもおすすめ出来ません。
    現実的な話をすれば手術の前に検査をすすめその費用まで説明したら丁寧で親切な病院と判断される飼い主さんもいらっしゃるかもしれませんが、もっと安上がりでスムースに手術をしてくれる病院を探される飼い主さんが多いと思います。
    正直に申し上げますと、当院でも避妊、去勢の手術で亡くなった動物はいますし、麻酔などが安定しないので手術を中止したケースもあります。残念な事ですが、同様の悲しい事故が起こっている病院は少なからずあると思います。
    私は、避妊手術中の事故が起こって以来、同様の手術をする場合、健康診断的な意味合いも含めて術前検査をする事を簡単にですがおすすめしています。数百人の飼い主さんに説明しましたが検査を希望された方は現在の所二名だけです。
    相談頂いた飼い主さんももし術前に万が一の危険性を探す検査をすすめられたとして、快く承諾されたでしょうか?そしてもう一つしっかりと認識していただきたい事ですが検査を受けたとしても、死亡原因が確実に見つかる保障はどこにも無いという事です。
    人間の場合どのような手術に対してどの程度の術前検査が実施されるのか分かりませんが、動物の場合残念ながらある程度の限界がある事は理解して頂きたいです。私達獣医師は、この様な不幸な事故が起こらないように出来る範囲で精一杯の準備をし、集中して手術に取り組んでおります。とは言っても人間のすることであり、生き物を相手にする事ですから、絶対に安全な事など無いと思います。自分の大切なペットを失った飼い主さんには、このような事情を100パーセントではなくても、その何割かを理解し納得していただくしかないと考えますが、如何でしょう。


  • 近所の動物病院の先生は、レントゲンの撮影や耳の治療などの時に動物が暴れると直ぐに麻酔をかけます。「作用時間が短くて安全性の高い薬です。」と言われますが頻繁に麻酔をかけても本当に副作用など心配ありませんか?


    当院では、レントゲンの撮影や外傷の処置、耳の治療等の時に麻酔をかけることはありません。多少動物が暴れたとしてもまずは動物をなだめてすかして何とか落ち着かせて、口輪をしたり、タオルなどにくるんだりして、飼い主さんと病院のスタッフで出来るだけ静かに取り押さえて必要な処置や治療をしています。動物は学習しますから、一度取り押さえられてしまうと、回数を重ねるにつれて諦めが良くなりそれ程苦労しなくても、大概の処置や治療は出来ると思います。
    ですからご質問頂いた病院がどの様な麻酔薬をどの様な用量でどの様な状態の動物にどの様な頻度で用いられるのか分かりませんし、他の病院でも一般的にこんな用途で麻酔薬が用いられるケースが多いのか申し訳ありませんが知りません。
    麻酔薬についての一般的な知識は持ち合わせているつもりですので、自分の分かる範囲で答えさせていただきますがひょっとしたら私の勉強不足と世間知らずの為にトンチンカンな内容になるかもしれませんが、ご容赦ください。
    レントゲン撮影や処置、治療の為であれば、ほんの数分間動物を沈静すればよいのでしょうから作用時間のごく短い麻酔薬を筋肉注射で投与するのだと思います。
    この類の麻酔薬は、手術の為に長時間の安定した麻酔をかける場合の麻酔前投薬に用いていますし、当院以外の殆どの病院で同様に使用されていると思います。この薬は安定した鎮静効果が高い確率で得られて、安全性も高い優れた薬だと思います。
    但し、手術なんて一生のうちに多くとも数回受けるかどうかでしょうから、副作用の発現する可能性は殆どありません。所が、例えば耳の治療なら連日若しくは数日間隔で何度か必要でしょうから、その度に麻酔をかけた場合の身体にかかる負担は予測できません。
    麻酔薬を数日間隔で連続投与する場合の身体にかかる負担や、副作用の発現については、安全性を保障するようなデーターは私の不勉強によるものかもしれませんが無いように思います。逆に連続投与で悪い結果が認められたと言う情報もありません。私が麻酔薬の連続投与を考慮した事が無いので、特にその辺りの情報を見過ごしている確率も正直申し上げて低くはないと思います。
    動物の年齢や健康状態によりますが、特に心臓や肝臓に異常があれば麻酔をかける前に十分な診察や検査が必要だと思います。検査などをすれば費用の面で飼い主さんの負担が増えますし、そのような動物に麻酔をかけるリスクも低くはないと思います。当院での出来るだけ落ち着かせながらある程度強引に押さえ込むやり方も動物に少なからずのストレスを与えていますから、勿論それが最善の方法とは思っていませんが、麻酔をそれも連続的にかける事によるリスクや負担の方が私は望ましくないと考えますから当分の間は麻酔を使わずに対処すると思います。
    最終的にはその病院の責任者の判断によるものですから、麻酔を多用される先生はそれなりに麻酔についての勉強と経験を多く積まれているのだと思います。ですから、いろんな場面で麻酔を用いる事が良いか悪いかではなくて飼い主さんが不安な気持ちを打ち明けて先生が納得のいく説明をされれば安心して治療をお願いすればよいし安心できなければ他の安心できる病院を探されれば良いと思います。


  • ケタミンという麻酔薬が、今年の一月から麻薬に指定された為、動物病院で行われる手術の費用が高くなると言う噂を聞きましたが本当ですか?


    動物病院でケタミンという麻酔薬を使用している割合は 当院も含めてかなり高いと思います。他の病院で この薬をどのような状況でどのように用いているかは解かりませんが、当院の場合を簡単に説明しましょう。ケタミンは筋肉又は静脈へ注射により投与して、速やかに麻酔状態が得られ 10~25分位作用が持続しますので 犬や猫の手術で、初めにアトロピン、ドロレプタンと併せて導入麻酔として用いています。麻酔状態になったら気管チューブを口から挿入して本格的な安定した麻酔状態にして、手術を始めます。つまり、手術の為の安定した麻酔状態を得る為の重要な役割を果たしてくれる薬です。そして、呼吸を抑制したり、血圧を低下させたりする事が少なく、筋弛緩による防御反応の低下も殆んど見られないので、副作用の心配が少なくて安全性の高い事が特長です。つまり、安全で便利な薬であり、他に似たような薬が残念ながらありません。従って、麻薬に指定されても当院としては必要な薬と判断しました。それで、今後もケタミンを取り扱う為には、麻薬施用者免許を取得しなければなりませんでした。昨年まず講習会を受け、健康診断を受け申請書を提出し手数料を支払って、免許をもらいました。二年ごとに更新する必要があるそうです。次に麻薬ですから、他の薬のように薬だなに置くわけにはいかなくなり、麻薬金庫を購入して、簡単に持ち出せないように棚に固定しました。そして、薬の残量をチェックする為に管理ノートの記入が義務付けられました。麻薬に指定された為に、薬屋さんも扱いが面倒になるので今まで購入していた50mlのバイアルが製造中止となり、次回の購入する時から10mlのバイアルになるでしょう。詳しい価格はまだ在庫があるので調べていませんが、おそらく割高にはなるでしょう。
    以上のように、ケタミンが麻薬に指定された為に、病院としては手間がかかり、費用もかかり仕入れコストも上がると思います。とは言っても、一回の麻酔に用いる薬剤量はさして多くありませんから、麻酔の料金を上げていませんし、今後何かの事情で値上げする事があったとしても、今回のケタミンが麻薬に指定された事とはあまり関連が無いと思います。他の病院のことはよく解かりませんが、ひょっとして便乗的に料金を高くしたところもあるかもしれませんが変わらない病院もたくさんあると思います。心配なら手術を受ける前に確認されればよいと思いますが、何も麻酔の料金で手術を受ける病院を選ばれるのは、賢い患者さんのされる事では無いように思います。先生との信頼関係で病院を見つけてくださる事を期待します。