よくあるご質問

飼い主さんからよく受ける質問にお答えします。
※10年前に掲載した内容もあり、情報が古い場合もございます。お気付きの点がありましたらご指摘、ご指導ください。

インフォームドコンセント


  • 家の犬(シーズー、メス、12歳)が、乳腺腫瘍と診断され、年齢や病状から死亡の危険性も示唆されましたが、手術しか治療法はない様な説明を受けて、手術に同意しましたが、結果的に術中に亡くなりました。調べてみると、内科的な治療の可能性があったようにも思いますが、病院に責任を問えませんか?


    正直申し上げて、ご質問の内容について、病院の責任を問えるか否かについては全くわかりませんので、お答えできません。この種の質問は弁護士さんにお願いして下さい。ただ、最近当院でも似たようなケースがありましたので、参考になるかもしれませんから、その症例について簡単に紹介しましょう。
    10歳の柴犬(メス)で、同様に乳腺腫瘍でした。胸部に種瘤が幾つかあるのは4~5年前からわかっていたが、最近急速に大きくなり一箇所から膿が滴るようになり、当院へ初めて来院されました。腫瘍は触診で 最大の排膿しているものが直径5センチ位、他に2センチ位のものが4個、1センチ以下のものが10個以上確認できました。胸部のレントゲン写真により、肺への転移も確認されました。初診時は、食欲が少し落ちているが元気もあり、尿や便も正常でした。飼い主さんは手術や抗癌剤の投与も含めて、最善の治療を希望されました。当院としての診断は、悪性腫瘍の末期段階であり、肺への転移を認めるので腫瘍を摘出する手術は、危険性が高く肉体へのダメージが大きい割には、あまり延命は期待できない。抗癌剤は副作用により食欲、元気の消失につながる可能性が高いのですすめられない。結局は排膿部の消毒と鎮痛剤等による元気と食欲の維持を目的とする治療しか出来ない、ということでした。当院の診断に納得できないのなら、他の病院の診断も受けて、判断される事をおすすめしました。3件の病院へ電話でこれまでの経過と現状を話して治療方針を尋ねられたそうです。1件で手術をすすめられ、他の2けんで当院と同様の維持療法をすすめられたそうです。家族でよく話し合われて結局、当院での治療する事にされました。飼い主さんは、排膿して部屋が汚れるので一番大きな腫瘍だけの摘出を希望されましたが、手術により寿命を縮める危険性が高い事と 他の腫瘍でも数ヶ月のうちに同じ事が起こってくる事を理解して頂き、諦めていただきました。抗癌剤についても、現在の食欲が副作用により無くなるとかえって死期を早める事を繰り返し説明して、納得して頂きました。現在は、異常に気付きながら数年間放置した事を 飼い主さんは心から悔やまれながらも、懸命に維持療法を続けておられます。最終的には安楽死という選択肢もあることを説明しましたが「本人の苦痛を見ていられなくなるまでは、一日でも長く維持療法を続ける。」と言って頑張っておられます。
    質問を頂いた方も、腫瘍の手術は一刻を争うわけではありませんから、出来たら他の病院へも、電話での問い合わせてもいいから尋ねてみられたら、良かったかもしれません。摘出手術は、腫瘍に対する重要な治療法の一つですが、あくまで選択肢の一つで他にも幾つかの治療法があり、その各々にメリットとデメリットがあり、どの治療法がそのペットの病状と飼い主さんの希望に最適であるのかを、十分に説明してくれる病院にめぐり合えたかもしれません。ひょっとすると、手術によるメリットと、他の治療法のデメリットをはかりにかけて、手術が最適と判断され同様の結果になったとしても、それ程悔やまれる事も無かったかもしれません。今回の質問についての私の率直な気持ちは、確かに手術を受けた病院の治療法等についての説明、いわゆるインフォームド・コンセントという点では 不十分だったかもしれませんが、残念ながら そのような病院は少なくないと思います。幾つかの病院に相談してみて、十分な説明を受け、自分なりに理解し納得していれば、結果が同じであっても受け止め方は違ったかもしれません。信頼できる、かかりつけの病院を見つけることは大切な事ですが、獣医師からの十分な説明により飼い主さんが病気やその治療法について理解し納得できないのなら、他の病院にも相談してみる事も考えてみるべきではないでしょうか。


  • ユーアイ動物病院では、インフォームド・コンセントについてどのような姿勢で取り組まれていますか?

    大変ストレートな質問で、戸惑ってしまいますが、私なりのインフォームド・コンセントの解釈を再掲しますと「獣医師が飼い主さんに対して ペットの病気や 現在の状況、治療法等について、出来るだけ解り易く、正確な説明を十分にして、飼い主さんがペットの病気について理解、納得した上で、自らの意思で治療法を選択して病気からの回復に取り組む事」です。
    この文章の主語は飼い主さんであることに気付かれましたか?要約すると「飼い主さんが、獣医師による丁寧で解り易い説明により、ペットの病気とその治療について理解して、自ら治療法を選択し回復に取り組む事」と、こんな表現が適当ではないでしょうか。
    ですから、インフォームド・コンセントの主役は、飼い主さんであって、獣医師は飼い主さんがご自分のペットの病気やケガに対する治療に立ち向かう為の知識や判断材料を提供する立場だと考えております。その為に、口頭での表現だけではなくて、下手くそな絵を描いてみたり、症状等を箇条書きにしたり、治療手順をチャート化(図式化)してみたり、書物やインターネットから入手した写真(コピー)等を活用したりと、自分なりには少しでも解り易い説明の為に努力しているつもりです。ただ、それらが飼い主さんにとってどれ程お役に立っているかについては あんまり自信がありませんけれどね。
    最後に申し上げたい事は、インフォームド・コンセントにおいて、獣医師の果たす役割も重要ですが、主役は飼い主さんですから、説明を聞いて理解したり記憶したり、頭の中で整理したりする為に少なからぬ努力も必要でしょうし、御自分で決断された治療法に対する責任も感じて頂きたいという事です。勿論、獣医師としての責任を回避しようとして申し上げているわけではなくて、ペットの治療というものは、獣医師と飼い主さんの共同作業だと思って、日々の診療活動に取り組んでおります。


  • 近所の動物病院の先生は、名医だと評判ですが、診察を受けても 病名やペットの病状について、殆ど説明されません。こちらから尋ねても、曖昧な表現ばかりで はっきりとは答えてもらえません。この様な先生は信頼できるのでしょうか?


    ご質問にお答えする前に 最近よく耳にする「インフォームド・コンセント」と言う言葉について、考えてみましょう。直訳すると「十分な説明に基づく同意」となりますが、解り易い言葉で表現すると「医者が、患者に対して、病気や 現在の状況、治療法等について、出来るだけ解り易く、正確な説明を十分にして、患者が病気について理解、納得した上で 自らの意思で治療法を選択して病気からの回復に取り組む事」位でしょうか?この概念を動物病院にあてはめるなら、「医者」を「獣医師」に、「患者」を「飼い主」に置き換えれば適当だと思いますが、如何ですか?
    質問者のご近所の先生は、「名医」と評価されているのですから、たゆまぬ勉強と十分な経験に基づいて、適切で患者さんのニーズに応じた診療活動をなさっておられるのだと思います。私のような未熟者がどうのこうの申し上げられる立場ではございませんが、「インフォームド・コンセント」と言う観点からは、不満をもたれても仕方がないのかもしれません。
    その先生としては自分なりに丁寧で解り易い説明を心がけておられるのかもしれませんが、獣医さんには無口と言うか、口下手な人間がかなり多いようで、この点についての不満をお持ちの飼い主さんは 質問者以外にも 私が想像するより多いのかもしれませんね。
    「インフォームド・コンセント」という概念について、臨床に従事する獣医師なら誰もがその重要性を認識していると思いますが、その取り組み方と成果にはバラツキがあるのが現実でしょう。今後、良い方向へ向かう事を期待してください。勿論、飼い主さんものんびりと期待するだけではなくて、大切なペットの事ですから、任せきりにするのではなくて、どういう病気なのか、どのような状態なのか、どのような見込みで治療するのか、治療に用いる薬にはどのような作用があるのかなど等、自分から積極的に、納得がいくまで質問しましょう。飼い主さんのペットへの愛情や病気に取り組む熱意が伝われば、どんな口の重い先生でもきっと納得できる説明をしてくださると思います。